40億年前、太古の海で偶然生まれた高分子化合物の1つが、雷に撃たれて、自分の複製を作る能力をもった。以後、大雑把な複写を続け、この世は、少しづつ違う生物のコピーだらけになった。
小学校では、人は死んだら水とCO2になっていつまでも大気圏を巡り、みんなを見守っていると教え、子供たちを暗澹たる気持ちにさせている。絵は絵の具でなく画家の心であるように、人も水やCO2でなく、命を複写する働きである。
体には命のタイムスイッチがついていて、その時がくれば止まる。「私」は脳の中で点いたり消えたりしている信号で、タイムスイッチはついていない。
いつか或る日、「私」は消え、見えていた世界や、記憶していた世界が消える。「私」の香りは、残り香になって、しばしこの世を漂う。文字や絵や誰かの中に残った記憶は、温めると、香木のように「私」の香りを発する。昔から言霊といわれ、死を迎える人の心の準備を助けたり、愛する者を亡くした人に生きる力を与えたり、自殺したい気持ちになっている人に生きる勇気を与えたりする働きがある。
「私」を生み出した力はいつまでも働き続ける。